危篤時に預金を引き出すことはできる?必要な書類やトラブルを避けるコツを解説!
大切な家族が危篤状態になったとき、医療費や葬儀費用のことが頭をよぎる方も多いはずです。そんなとき、本人の預金口座からお金を引き出せるのか、不安に感じることもあるのではないでしょうか。実は危篤時の預金引き出しは可能ですが、いくつか注意すべきポイントがあります。
きちんと手続きを踏まないと、あとから相続トラブルに発展する可能性もあります。この記事では、危篤時の預金引き出しに必要な手続きや、口座凍結のタイミング、相続トラブルを避けるための具体的な対策まで、知っておきたい情報をまとめてお伝えします。
危篤時に預金を引き出すことはできる?
危篤状態でも、本人がまだ生きている間は法律上その人の財産として扱われます。ですから、適切な方法を取れば預金を引き出すことは可能です。
1. 本人の意思確認ができれば引き出しは可能
本人が意識をしっかり保っていて、自分の意思で「預金を引き出したい」と伝えられる状態であれば、基本的に問題なく引き出せます。
銀行の窓口では、本人確認のために身分証明書や通帳、届出印などが必要になります。ただし危篤状態だと本人が銀行まで出向くのは難しいため、家族が代わりに手続きをするケースがほとんどでしょう。
このとき大切なのは、本人の意思があることをきちんと証明できるかどうかです。意識がはっきりしているうちに、家族に預金の管理を任せる旨を伝えておくと、その後の手続きがスムーズに進みます。
2. 代理人カードや委任状があればスムーズに対応できる
本人が銀行に行けない場合、代理人カードや委任状があると手続きがぐっと楽になります。
代理人カードは、本人があらかじめ銀行で手続きをしておくことで、指定した家族が本人の口座から預金を引き出せるようになる便利な仕組みです。多くの銀行が提供していて、高齢の親がいる家庭では事前に作っておくケースも増えています。
もし代理人カードがない場合でも、委任状があれば対応してもらえることもあります。ただし委任状の場合は、本人の意思確認が必要になるため、意識がはっきりしていることが前提になります。
3. 銀行によって必要な書類が異なる点に注意
実は銀行ごとに求められる書類や手続きが違うため、事前に確認しておくことをおすすめします。
ある銀行では本人確認書類と通帳だけで対応してくれることもあれば、別の銀行では診断書や委任状の提出を求められることもあります。特に大きな金額を引き出す場合は、慎重な対応を取る銀行が多いようです。
時間に余裕があるうちに、利用している銀行の窓口やカスタマーセンターに問い合わせておくと安心です。いざというときに慌てずに済みます。
危篤を理由に預金を引き出す際に必要な書類
危篤時の預金引き出しには、通常よりも多くの書類が必要になることがあります。事前に準備しておくと、いざというとき慌てずに対応できます。
1. 医師による診断書
銀行によっては、本人が危篤状態であることを証明するために医師の診断書を求められることがあります。
診断書には、本人の病状や意識の状態、危篤状態であることが記載されています。この書類があることで、銀行側も家族が緊急的に預金を引き出す必要性を理解しやすくなります。
ただし診断書の発行には数日かかることもあるため、主治医に早めに相談しておくのがよいでしょう。病院によっては当日発行してくれるところもあります。
2. 住民票の写しまたは戸籍謄本
本人と預金を引き出す家族の関係を証明するために、住民票の写しや戸籍謄本が必要になることもあります。
特に代理人として手続きをする場合、銀行は「この人が本当に本人の家族なのか」を確認しなければなりません。住民票や戸籍謄本があれば、親子関係や配偶者関係を明確に示せます。
市役所や区役所で取得できますが、マイナンバーカードがあればコンビニでも発行できるので便利です。有効期限があるため、発行から3ヶ月以内のものを用意しましょう。
3. 請求書や振込用紙など使用目的を証明する書類
引き出したお金を何に使うのか、その目的を証明する書類があると手続きがスムーズに進みます。
例えば入院費の請求書や、葬儀社からの見積書などです。銀行側も「正当な理由があって引き出している」と判断しやすくなるため、協力的な対応が期待できます。
使用目的が明確であれば、あとから他の相続人とトラブルになったときにも説明がしやすくなります。必ず書類を保管しておくことが大切です。
銀行口座が凍結されるタイミングとは?
預金を引き出せる期間には限りがあります。なぜなら、本人が亡くなると銀行口座は凍結されてしまうからです。
1. 銀行が本人の死亡を知った時点で凍結される
銀行口座が凍結されるのは、銀行が本人の死亡を知ったタイミングです。
つまり、亡くなった瞬間に自動的に凍結されるわけではありません。家族が銀行に連絡したり、死亡届が提出されたりして、銀行側が把握した時点で凍結の手続きが取られます。
このため、亡くなってすぐに銀行に連絡しなければ、数日間は引き出しができる状態が続くこともあります。ただし、あとから問題になる可能性があるため、慎重に判断する必要があります。
2. 凍結されると相続手続きが完了するまで引き出せない
一度口座が凍結されると、相続手続きが完了するまで一切お金を引き出せなくなります。
相続手続きには遺産分割協議書の作成や、相続人全員の同意が必要になるため、数ヶ月から半年以上かかることも珍しくありません。その間、口座のお金は完全に使えない状態になります。
だからこそ、危篤の段階で必要なお金を準備しておくことが重要なのです。凍結後に「お金が必要なのに引き出せない」という事態を避けられます。
3. 公共料金の引き落としも止まるため事前準備が大切
口座が凍結されると、電気代や水道代、携帯電話料金などの自動引き落としもすべて止まってしまいます。
引き落としができなくなると、未払い通知が届いたり、最悪の場合サービスが停止されたりする可能性もあります。特に故人が一人暮らしだった場合、家の管理に支障が出ることもあるでしょう。
事前に引き落とし先の変更手続きをしておくか、現金で支払えるよう準備しておくと安心です。支払いが滞らないよう、早めに対応しましょう。
口座凍結後に使える相続預金の払戻し制度
もし口座が凍結されてしまっても、まだ手段は残されています。相続預金の払戻し制度を使えば、一定額までなら引き出せます。
1. 相続預金払戻し制度の仕組み
相続預金払戻し制度は、2019年の民法改正で新しく作られた制度です。
この制度ができる前は、口座が凍結されると相続人全員の同意がないと一円も引き出せませんでした。でも葬儀費用や当面の生活費に困る人が多かったため、一定額までなら単独で引き出せるようになったのです。
遺産分割協議が終わる前でも利用できるため、急ぎでお金が必要なときにはとても助かる制度です。ただし、引き出した金額は相続財産から差し引かれることになります。
2. 1つの金融機関につき最大150万円まで引き出せる
この制度で引き出せる金額には上限があります。
計算式は「相続開始時の預金額 × 1/3 × 法定相続分」で、1つの金融機関につき最大150万円までです。例えば、預金が900万円あって相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者は150万円、子どもはそれぞれ75万円まで引き出せます。
複数の銀行に口座があれば、それぞれの銀行から上限額まで引き出せます。ですから、トータルでは150万円以上引き出せることもあります。
3. 必要書類と手続きの流れ
払戻し制度を利用するには、いくつかの書類を揃える必要があります。
具体的には、被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)、相続人全員の戸籍謄本、請求者の印鑑証明書などです。銀行によって必要書類が少し違うこともあるので、事前に確認しておきましょう。
手続きは銀行の窓口で行います。書類を提出してから実際にお金を受け取るまで、1週間から2週間ほどかかることが多いようです。
葬儀費用や当面の支払いに必要な資金の目安
実際にどのくらいのお金を用意しておけばよいのか、具体的な金額を知っておくと安心です。
1. 一般的な葬儀費用の相場
葬儀にかかる費用は、規模や形式によって大きく変わります。
一般的な葬儀の場合、100万円から200万円程度が相場とされています。家族葬など小規模なものなら50万円から100万円ほどで済むこともあります。逆に参列者が多い社葬のような形式だと、300万円を超えることも珍しくありません。
内訳としては、葬儀社への支払い、お寺へのお布施、飲食接待費などがあります。地域によっても相場が違うため、事前に葬儀社に見積もりを取っておくとよいでしょう。
2. 入院費や医療費の清算に備える
危篤状態になる前に入院していた場合、退院時や死亡時に医療費の清算が必要になります。
入院が長期にわたっていれば、数十万円から100万円以上になることもあります。健康保険が適用される部分もありますが、差額ベッド代や食事代など自己負担分も意外と大きな金額になります。
病院によっては退院時や死亡後すぐに支払いを求められることもあるため、ある程度まとまった現金を用意しておくと慌てずに済みます。
3. 公共料金やクレジットカードの支払いも考慮する
見落としがちなのが、日常的な支払いです。
電気代、水道代、ガス代、携帯電話料金、インターネット料金、クレジットカードの支払いなど、毎月引き落とされるものがたくさんあります。口座が凍結されるとこれらの支払いができなくなるため、数ヶ月分の支払いができるだけの資金を確保しておくと安心です。
特にクレジットカードの引き落としができないと、信用情報に傷がつく可能性もあります。故人の名義のものは早めに解約手続きをするか、支払い方法を変更しておきましょう。
危篤時の預金引き出しで相続トラブルを避けるためのポイント
せっかく引き出したお金が、あとから相続トラブルの種にならないよう注意が必要です。
1. 領収書を必ず保管しておく
引き出したお金を使ったら、必ず領収書をもらって保管しておきましょう。
「何にいくら使ったのか」を証明できる書類があれば、他の相続人から疑われたときにも堂々と説明できます。特に葬儀費用や医療費など高額な支出については、詳細な明細書を取っておくことが大切です。
領収書がない場合は、銀行の振込明細やクレジットカードの利用明細でも代用できます。とにかく「お金の流れ」が分かる記録を残しておくことがポイントです。
2. 使った金額を記録に残しておく
領収書と合わせて、いつ、何のために、いくら使ったのかを記録しておくとさらによいでしょう。
ノートやエクセルなどに一覧表を作っておくと、あとから確認するときに便利です。日付、項目、金額、支払い先などを整理しておけば、誰が見ても分かりやすくなります。
このような記録があれば、相続税の申告時にも役立ちます。税務署から問い合わせがあったときにもスムーズに対応できます。
3. 他の相続人に事前に説明しておくと安心
可能であれば、預金を引き出す前に他の相続人に説明しておくとトラブルを避けられます。
「葬儀費用と医療費のために○○万円引き出します」と事前に伝えておけば、あとから「勝手に使った」と言われる心配もありません。相続人全員が納得していれば、遺産分割協議もスムーズに進みます。
特に兄弟姉妹が複数いる場合は、情報共有をこまめにしておくことが大切です。疑心暗鬼を生まないよう、オープンに話し合いましょう。
事前にできる対策:代理人指定や家族信託の活用
危篤になる前に準備しておけることもあります。早めに対策を取っておくと、いざというときに慌てずに済みます。
1. 代理人カードや予約型代理人サービスを利用する
銀行の代理人カードは、元気なうちに作っておくととても便利です。
親が高齢になってきたら、子どもを代理人に指定してカードを作っておくケースが増えています。これがあれば、親が動けなくなったときでも子どもが預金を引き出せるため、急な出費にも対応できます。
最近では「予約型代理人サービス」を提供する銀行も増えています。これは本人が認知症などで判断能力を失ったときに自動的に代理人が権限を持つ仕組みです。事前に登録しておくだけで、いざというときにすぐ使えます。
2. 家族信託や任意後見の検討
もう少し本格的な対策として、家族信託や任意後見という方法もあります。
家族信託は、財産の管理を信頼できる家族に任せる契約です。本人が元気なうちに契約を結んでおけば、認知症になっても家族が財産を管理できます。銀行口座の凍結を心配する必要もありません。
任意後見は、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ後見人を決めておく制度です。公証役場で契約書を作成する必要がありますが、本人の意思を反映できる点が大きなメリットです。
3. 判断能力が低下する前に手続きを済ませておく
これらの対策はすべて、本人の判断能力がしっかりしているうちに行う必要があります。
認知症が進んでからでは、法的に有効な契約ができなくなってしまいます。そうなると成年後見制度を利用するしかなくなり、手続きも複雑になります。
親が60代、70代のうちに家族で話し合って準備を始めるのがおすすめです。「縁起でもない」と思わずに、早めに対策を取っておきましょう。
相続財産から葬儀費用を支払う方法
葬儀費用を誰が負担するのかは、よく問題になるポイントです。
1. 遺産分割協議による合意
葬儀費用を故人の財産から支払うには、相続人全員の合意が必要です。
法律上、葬儀費用は「喪主が負担するもの」とされているため、自動的に相続財産から支払えるわけではありません。ただし相続人全員が「遺産から払いましょう」と合意すれば、問題なく支払えます。
遺産分割協議書にその旨を記載しておくと、あとから揉めることもありません。葬儀の前に相続人で話し合っておくとスムーズです。
2. 預貯金の仮払い制度の利用
先ほど紹介した相続預金払戻し制度を使えば、遺産分割協議の前でも一定額を引き出せます。
この制度で引き出したお金を葬儀費用に充てるのは、よく使われる方法です。150万円まで引き出せるので、一般的な葬儀であれば十分まかなえるでしょう。
ただし引き出した金額は最終的に相続財産から差し引かれるため、遺産分割時に調整が必要になります。その点を他の相続人に説明しておくことが大切です。
3. 死亡保険金からの支払い
生命保険に加入していた場合、死亡保険金から葬儀費用を支払う方法もあります。
死亡保険金は受取人固有の財産とされるため、相続財産には含まれません。そのため相続人全員の合意がなくても、受取人の判断で使えます。
保険金は比較的早く支払われるため、葬儀費用の支払いに間に合うことが多いのもメリットです。ただし受取人が複数いる場合は、やはり話し合っておくとよいでしょう。
引き出した預金も相続財産に含まれる点に注意
危篤時や死亡直後に引き出したお金も、相続財産として扱われます。
1. 相続税の申告対象になる
相続税の計算をするとき、死亡前後に引き出した預金も相続財産に含めて計算します。
たとえ葬儀費用や医療費に使ったとしても、一度は相続財産として申告しなければなりません。その上で、葬儀費用として使った分は債務控除として差し引くことができます。
税務署は銀行口座の動きをチェックするため、大きな金額の引き出しがあれば必ず確認されます。正直に申告して、使途を説明できるようにしておきましょう。
2. 遺産分割協議で精算が必要
引き出したお金は、遺産分割協議の際に精算する必要があります。
例えば長男が300万円引き出して葬儀費用に使った場合、その300万円も遺産に含めて計算します。そして最終的に長男の取り分から300万円を差し引く、という形で調整します。
こうした精算をきちんと行わないと、他の相続人から「不公平だ」と言われる可能性があります。透明性を保つことが大切です。
3. 他の相続人から請求される可能性もある
もし葬儀費用以外の目的で預金を引き出していた場合、他の相続人から返還を求められることがあります。
特に問題になりやすいのが、「生活費」や「自分のために使った」と見られるケースです。正当な理由がなければ、使い込みと判断されて返還義務が生じます。
最悪の場合、訴訟に発展することもあります。だからこそ、預金を引き出すときは必ず使途を明確にして、記録を残しておくことが重要なのです。
まとめ
危篤時の預金引き出しは、適切な手続きを踏めば可能ですし、必要な資金を確保するためには大切な行動です。ただし口座凍結後は相続預金払戻し制度を使うか、遺産分割協議を経なければ引き出せなくなります。
何より大切なのは、引き出したお金の使い道を明確にして、領収書や記録をきちんと残しておくことです。そうすれば相続トラブルを未然に防げますし、他の相続人との信頼関係も保てます。できれば元気なうちに代理人カードや家族信託などの対策を取っておくと、いざというときに慌てずに済むでしょう。
